構造材料強度学研究室では,構造力学を基盤としながら,機械システムの設計・開発から製造,運用,廃棄までのライフサイクル全体を対象とした,数理的なアプローチに基づいたシステムの設計論の革新に取り組んでいます.社会の持続的な発展に寄与するため,多様な領域の研究との融合を図りながら,次世代の機械システムやデバイスの創出を目指します.
トポロジー最適化法により得られる構造の中には、非常に細い領域で材料が分布していたり、材料の分布が不連続になることがあります。これらの構造は応力集中を招き、実際の製造が困難になる場合があります。そこで、本研究室では、複数の変形可能な構成要素を用いて材料分布を表現するMMC法に基づく最適化手法を研究しています。この手法により、材料の太さの最小値を制御し、設計空間の境界間で材料が途切れない実用的な構造を創出することが可能となります。
製造可能性を担保したトポロジー最適化法(ねじり機構の最適化例)
フレーム要素のような離散構造要素を用いた構造最適化は、材料力学や構造力学に基づく定式化により、その力学的性質が明確で、最適解の解釈が比較的容易です。さらに、これらの要素を用いて得られた最適解は、各要素の配置位置と寸法諸元により具体的に表現され、実際の設計案に直結するため、設計者にとって非常に有用です。本研究室では、離散構造要素を用いた構造最適化技術の開発を進め、実用的な設計手法の確立を目指しています。
フレーム要素を用いた構造最適化(最適解と最適化プロセス)
ポンプやタービンに代表される流体機械は、流体との間でエネルギーの授受を行う装置です。これらの機械には、高効率な設計や振動・騒音の低減といった多くの要件が求められます。とりわけ,流体機械の多くは回転を伴い、その複雑な内部流れを予測するためには数値シミュレーションが不可欠です。本研究室では、数値流体解析とトポロジー最適化を組み合わせることで、流体機械に対する革新的な設計手法の提案と高度化を目指して研究を進めています。
回転するファンの最適形状導出(最適解と最適化プロセス)
ゴムや金属といった自然材料から人工材料に至るまで、多くの材料は粘性、塑性、損傷といった材料非線形特性を示します。しかし、従来の研究では、できるだけ変形しない構造が望ましいと考え、材料を線形弾性体として仮定して最適形状の導出が行われてきました。本研究室では、材料力学理論とトポロジー最適化を積極的に組み合わせることで、既存の枠組みでは実現不可能な、材料の特異性を発揮する形状を創出する最適設計法の研究を進めています。
複数の弾塑性材料による構造最適化(小変形と大変形)
全固体電池は、従来の液系電池で問題となっていた発火の危険性を解決するために、非常に注目されています。しかしながら、電解質が固体で構成されているため、反応が起きる粒と粒の接触面積が十分に確保できず、十分に性能を発揮できないという課題があります。本研究室では、電池内部の構造にトポロジー最適化法を適用することで、電池内部に存在する各材料の性能を最大限に活かすことができる材料分布を、数学的および物理的な根拠に基づいて導出する研究を行っています。
全固体電池を対象としたマルチスケール構造最適化法
トポロジー最適化法では、製造が困難なほど複雑な構造が最適解として得られることが課題の一つとなっています。
そのため、設計者は得られた最適構造を別途修正する必要がありますが、最適解の性能を維持しつつ製造可能な形状へと調整することは容易ではなく、設計者の勘や経験、試行錯誤に依存する部分が大きいのが現状です。
本研究室では、最適化の段階で製造性細線化アルゴリズムなどの画像処理技術を活用した寸法制約手法の研究を進めています。
細線化アルゴリズムに基づく最大最小寸法制約を考慮したトポロジー最適化
構造最適化は工学設計において重要な研究分野であり、建築、航空宇宙、機械、自動車などの幅広い分野で適用されています。構造最適化の目的は、材料使用量の削減、剛性の向上、耐久性の向上など、設計性能を最大限に引き出すことにあります。しかし、実際の設計環境では、外力の変動、製造誤差、材料特性のばらつきなどの不確実性が存在します。このような不確実性や変動要因が存在する環境下で、性能が大きく低下しない「頑健な」解を求めるのがロバスト最適化です。本研究では、構造性能に影響を及ぼす不確実性を効率的に表現することで計算コストを削減し、ロバスト性の高い最適解を導出する手法を構築します。
トラスの最適化(ばらつきを考慮しない最適化結果と考慮した最適化結果)
フォノニック結晶は、音響や弾性波の伝播を制御するために設計された人工的な周期構造を持つ材料です。これらの結晶は、「バンドギャップ」と呼ばれる特定の周波数範囲で音響や弾性波の伝播を遮断する特性を持っており、音響波や弾性波のフィルタリング、伝播方向の制御、エネルギーの局在化といった応用が可能です。本研究室では、フォノニック結晶の構造設計にトポロジー最適化を導入し、バンドギャップの最大化や軽量化を目指した手法の開発に取り組んでいます。
フォノニック結晶の複数材料トポロジー最適化
電子機器の小型化と高性能化に伴い、機器の発熱が問題となっています。機器の不均一な発熱分布に対応して、ヒートシンク内のフィン一本一本の寸法を決定することで、流れ場や熱伝達量を調整し、放熱を促進させることができます。しかしながら、傾斜機能ヒートシンク設計には大規模な熱流体解析を必要とするため、既往手法では適切な設計が困難でした。本研究室では、フィンの特性を学習させた代理モデルを用いることにより、フィンの寸法分布を最適化する手法の研究を進めています。
傾斜機能ヒートシンクのフィンの寸法分布の最適化
ベイズ最適化はブラックボックス最適化の一手法で、既存の情報をもとに最適解が得られる確率が高い点を順に探索します。この手法は、従来のトポロジー最適化に必要な目的関数の勾配を使用しないため、複雑な物理問題への適用性が期待されます。さらに、ベイズ最適化に基づくトポロジー最適化は、既存の非勾配法と比較して、より効率的に最適化を進められると考えられています。本研究室では、この手法の開発と複雑な物理問題への適用を行う研究を進めています。
ベイズ最適化による片持ち梁のトポロジー最適化
動的構造性能は、構造物の挙動を評価するための重要な指標であり、機械の性能と安全性の両方を確保する上で極めて重要な役割を果たしています。とりわけ,バイオインスパイアード構造の一種であるマルチスケールコーティング構造は、コーティング構造の利点(保護性能の向上、耐座屈性の向上)と格子状微細構造の利点(高剛性対重量比、効果的な振動低減)を兼ね備えています。私たちの研究室では、動的性能を向上させるためのトポロジー最適化、特に固有周波数の最大化と動的コンプライアンスの最小化に焦点を当て、マルチスケールコーティング構造(特に非均質微細構造)の可能性を追求しています。
動的構造性能を考慮したマルチスケール被覆構造の最適形状
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